テールイベントを無視するな?
投資という言葉を使うより、資産運用という言葉を使ったほうのが、初心者にとってはなんとなく優しいもののように聞こえるものです。
しかし、資産運用の話で出てくるもののほとんどが「投資の対象」であって、実質的には投資以外の何物でもない。
中には「投資信託なら買っているけれど、株って何?」という人も、最近は珍しくもない。
それほどに、投資信託という金融商品は、株式よりも身近な存在になってきた。
でも、実際に買っている投資信託が、株式資産を集めた投資信託であることもあるのに、株式資産のことも知らずに投資信託のことならわかるというのもおかしな話ではないでしょうか?
投資信託は、資産運用ではなく本質的には投資だと考えています。
そして、投資であるなら絶対に抑えておくべき「リスク」の話がある。
最近の金融資産のリスクについての説明の話では、ノーベル賞の現代ポートフォリオ理論が有名になってきていることが影響しているためか、「資産価格の変動率が何%」で、「リターンが何%」といった説明がされることが多いけれど、実務上で、最も抑えておかなければならないリスクの意味は、『テールリスク』であることに疑いの余地はないと思っています。
実は、現代ポートフォリオ理論の中では、この『テールリスク』をほとんど軽視しているかもしくはほとんど見ていないように感じています。
テールリスクとは、滅多におこらないリスクのことを言い。また、このテールリスクと同様に、滅多に起こらない、もしくは起こるはずがないと考えられている事件や事象のことを『テールイベント』と言っています。
テールイベントやテールリスクは、歴史や金融資産にとって大きな転機となってきた。
テールイベントやテールリスクと呼ばれるものは、滅多に起こらないこと、起こるはずがないと考えられることが、実際に起こった時のことを意味しています。
つまりは、テールリスクやテールイベントというのは、予想もできない出来事ということです。
しかし実際には、世界の歴史や金融市場の歴史を振り返ると、何度もこの起こるはずのない、予想もできないことが起こってきています。
そして、この起こるはずのないことが起こったことで、歴史や時代の転換点となってきました。
最近では新型コロナ感染症の世界的なパニックやロシアのウクライナへの侵攻。
今となっては当たり前のように感じているかもしれないけど、起こり始めたとき、今のよになっていると想像していた人はどれだけいたのでしょうか?
ちょっと前だと、東日本大震災の時もそうでした。津波の被害が、ここまで来るはずがないという想定を超えてしまい、とても大きな災害になってしまった。
歴史をたどれば明治維新のときだって、ことが起こる少し前までは、本当に幕府が終わることになるなんて当の本人たちでさえ思ってもいなかったかもしれない。
第一次世界大戦のきっかけは、オーストリア皇太子夫妻が暗殺されるという事件がきっかけだったと言われているけれど、その事件からまさかそこまで大きな戦争になるとは思ってもいなかったかもしれない。
生物の進化の過程にだってそういうことはあると思う。
キリンの首があんなに長くなったのは、必然だったのだろうか?、それともたまたまだったのだろうか?
何がきっかけで、どんな結末を迎えるのか、それを予想することはほぼ不可能。場合によっては、それが世界が変わるほどのインパクトを残すこともあります。
それがテールイベントの威力です。
歴史や社会の転換点というのは、おおよそテールイベントによって起こっていることが多く、普段の状況が大きな変化を起こすことはほとんどないようです。
滅多に起こらないことや起こると考えていなかったことが起こることで、大きな変化が生まれ、その変化を繰り返して、今の自然界や社会はできています。
だからこそ、リスクを取る者にとって、『テールイベント』というのは無視できない。
しかも、金融の世界では、この『テールイベント』が、意外にも高頻度で起こっています。
過去を振り返ると、当然だと思うようなことであったとしても、当時はそんなこと考えてもいなかった事、そしてそれが起こることで、金融市場に様々な変化をもたらしてきました。
問題は、『テールイベント』そしてその時に起こる『テールリスク』というのは、起こってみないとわからないという事です。
予想しようとして予測できるものは、そもそも『テールイベント』なんていわないわけで、数値で計算したり、予測して対策をとれるようなものではないのだと思います。
結局最後に残るのが、『万が一への備え』。テールリスクに備えるためには、結局のところこれしかないのかもしれないと思っています。
ところが、もっともらしい金融理論などがでてくると、テールリスクすでにわかっている気になって、過剰なリスクを取り始める。『万が一への備え』が崩れ始めることがある。
投資のリスクに備えるのは、ノーベル賞の金融理論でも、有名なアナリストの経済レポートでもなく、予測できないリスクである以上は、常に『万が一に備える』という対処法になってくるのだと思います。
長年投資の世界で成果を残してきた、実務家の著名投資家達は、理論や理屈よりも、そのことを大切にしているように感じています。
数字で計算できるものより、世界の原理原則、哲学ともいえるものを重視していると思っています。
そこを考えずに、投資や資産運用をするというのは、たとえものすごい理論的な話であっても、決して賢いやり方だとは思えないと感じています。
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